It's Not The Spotlight -1-


ゾロにはきっと、野心なんてないんだろう。
だって俺は、あいつが練習してる姿を見たことがない。
でもゾロにそれを言うと、奴はニヤリと笑って答える。
「努力してる過程を他人に見せるなんて、ダサいだろ」
確かにその通りではある。
俺は本心から納得したわけじゃないが、なんとなく言いくるめられてしまう。
いつだって、こうだ。


カツラの縦ロールを手櫛で整えているところへ、オパーリンが肩越しに話しかけて来た。
「サンジちゃん、こないだ駅前の喫茶店であんたを見かけたんだけど」
「なんだ。見たんなら、声かけてくれりゃよかったのに」
いつもの衣装の、白いパフスリーブドレスを頭から被り、背中のファスナーを引き上げる。
あとちょっとで上がらないところは、オパーリンが手伝ってくれた。
「あんた、男連れだったじゃないの。声なんか、かけられないわよ」
オパーリンは苦笑した。
隣の鏡の前に腰掛け、付けまつ毛をつけていたルチノーが、ピュウっと口笛を吹いた。
「やっだー、男?誰よ誰よ、サンジちゃん」
「だっ、誰でもいいだろ」
開演十分前の楽屋は騒然としている。

『カマバッカ』は都内のオカマショーパブの中では老舗だ。
ママの梵天はなかなかのやり手で、チイママの羽衣と組んで長いこと、この街で営業している。
普段の俺は三軒先のレストランのウエイターなのだが、週末の深夜は、この『カマバッカ』の踊り子だ。
俺は断じて女装趣味があるわけじゃない。
梵天ママに拝み倒されたとはいえ、このバイトを続けているのは、ウエイターとは比較にならないくらい金がいいからだ。

「サンジの男ってあいつでしょ。あたしも見たわよ」
スパングルが白粉を叩きながら話に割り込んで来た。
「ちょっとハンサムよねえ。端整で、ストイックな感じで……」
「お面は確かにいいわよね。それだけはね」
ぽってりした唇に、ラメ入りのグロスをのせていたハルクインが同意する。
「やめなさいよ、あんた達」
オパーリンが顔をしかめた。
「サンジちゃん、言っとくけど、あいつとだけは付き合わない方がいいよ」
「なんで?」
「すっごい評判悪いわよ、あの男。T線沿線、全部の駅にオンナがいるって噂よ」
オパーリンの忠告はありがたかったが、既に手遅れだった。
その時俺は、とっくにゾロと深い仲になっていたのだ。


ゾロと初めて会ったのは、俺の踊り子デビュー記念日だった。
いつものように、軽食とコーヒーの出前に『カマバッカ』に来た俺は梵天ママに捕まったのだ。
「サンジちゃん、手伝って!バイトの子が急に休んで、足りないの」
「え、いいよ。ちょっとだけなら。何を?」
「踊って!」
「ええええええええ!?」
オカマでも男だから力は強い。
俺は梵天ママと羽衣チイママに羽交い絞めにされ、無理矢理化粧をされて金髪の縦ロールのカツラを被せられた。
抵抗むなしくシャツとズボンを脱がされ、白いドレスを着せられて、何がなんだかわからないうちにステージに押し出されていた。
ヤケクソになって、その姿で思いっきり股を開いて炭坑節を踊ったら、何故かそれが大喝采。
「サンジちゃん、あんた素質あるわ」
呆然として楽屋に戻ると、ナンバーワンの踊り子、オパーリンが悔しそうにハンカチを噛みながら言った。
「サンジちゃん、踊ったら次はフロアで接客して!『バラティエ』のオーナーには電話しといたから。ちょっとサンちゃん借りてますって」
梵天ママが楽屋に駆け込んで来た。
「よかったわよ、ステージ!あんた、舞台度胸あるのねえ。お客さんから早速ご指名来てるのよ。さっ、早く早く」
羽衣チイママに腕を捕まえられて狭い通路を引き摺られ、今度はフロアだ。
俺は奥の上席に着かされた。
五、六人のグループ客で、男ばかりだった。
すでに酒が回っていて、どっちを見ても酔っ払いだらけのその席で、冷めてノリの悪い男がいた。
つまらなそうな態度を隠しもせず、一人そっぽを向いている。
それが、ゾロだった。
 
「気持ちわりぃ」
俺に対してのゾロの第一声だ。
フロアに出る前に楽屋の鏡で己の姿をしっかり確認したので、わざわざ言われなくてもわかっている。
なので、俺は返事をした。
「うるせえ。わかってらぁ」
ゾロは「お?」という顔をして、俺をちゃんと見た。
「おもしれえオカマだな」
「俺はオカマじゃねえ」
「じゃあ何だよ」
「ゲイだ」
「オカマとどう違うんだ」
「こんな席で説明する気はねえ」
「ふーん。まあ、飲め」
ゾロは俺にシャンパンを注いだ。
「いただきます」
一応挨拶してから、口をつける。
舞台の上で冷や汗をかいた体に、炭酸が気持ちよく染みとおっていく。

「オカマじゃねえとか言って、やっぱ男が好きなんだろ」
ゾロが言った。
「そうだよ。悪いか」
「悪くねえ」
ゾロはニヤニヤした。
「俺はタイプか?」
ゾロは身を乗り出し、俺の目を覗き込んだ。

その目は深いグレーで、フロアの照明が映って緑色に煌いて見えた。
俺は吸い込まれるように見つめ返し、思わずしっかりと頷いてしまった。
「じゃ、これ」
ゾロは紙ナプキンに、すらすらと名前と携帯の番号を書いた。
それを俺の手に握らせると、俺の手ごとぎゅっと包み込んでから、すぐに離した。

大きな手だった。
指が長くて、綺麗だ。
もうその時点で、俺はすっかりゾロに惚れ込んでしまったのだ。
「ウソップ。俺、先に帰るわ。この手の場所は、どうも苦手だ」
「なんだよ、ゾロ。付き合い悪いな」
「じゃあな」
ゾロは立ち上がり、俺だけを見て言った。
「お客様、お荷物を」
ルチノーが、大きな四角いケースを重そうに下げて来た。
ゾロはそれを軽々と受け取り、さっさと帰ってしまった。
俺は紙ナプキンを握り締めたまま見送った。

ゾロが去ってから、俺は残ったグループの面々を相手に情報集めをした。
彼らはバンドマンで、今日はライヴが終わった打ち上げだそうだ。
この店に来たのは初めてで、ほんの好奇心からだという。
「ゾロはあんまり乗り気じゃなかったんだ。だから、先に帰ったんだよ」
ウソップと呼ばれた鼻の長い男が言った。
バンドではドラムスを担当していると言う。
フランケンシュタインみたいなごつい大男は、もう夏も終わりだというのに派手なアロハシャツを着ている。
リードギターとヴォーカルだそうだ。
黒のスーツを着た、骸骨さながらの痩身の男は、ピアニスト。
顔に傷のある、まだ子供みたいな奴はサキソフォン。
「ロロノア・ゾロは、楽器は何持ってるんだ?」
俺は紙ナプキンに書かれた名前を見て、聞いた。
「ベースだよ」
ウソップが教えてくれた。
なるほど、あの重たそうなケースの中身はベースギターだったのか。
俺はゾロが、あの長い指で器用に弦を弾く様子を想像した。
即座にそれは、俺の体の上でゾロの指が踊る妄想に変わり、俺は鼻血を噴きそうになった。
っていうか、勃起しそうだ。
「すみません。ちょっとアタシ、気分が悪くなったんでこれで……」
突然オネエ言葉になった俺を、ウソップとバンドの面々は気味悪そうに見ていたが、あっさりと開放してくれた。

俺は店のトイレにこもり、しっかり鍵を掛けたのを確認してから、俺の手を握ったゾロの指を思い浮かべてマスターベーションをした。
それから、紙ナプキンを取り出して、皺をきちんと伸ばした。
ゾロの筆跡は、急いで書いたにしては綺麗で、俺はそれにきゅんとした。

すぐには電話を掛ける勇気がなくて、俺がその番号を押したのは会った日から十日ほども経ってからだった。
ああいう人種は朝は遅いだろうと思い、『バラティエ』がランチタイムに入る前の、僅かな休憩時間を使って掛けてみた。
「……もしもし?誰?」
 電話の主は、不機嫌そうな唸り声でコールに応えた。
「すみません、あの……」
名乗ろうとして、おそらく相手が俺の名前を知らないだろうということに思い至る。
「えーと。サンジと言います。このあいだはどうも」
「誰だよ?」
「ちょっと前に会った。覚えてませんか?」
「どこで?」
「『カマバッカ』で」
「どこだ、それは?」
「えー……オカマパブで」
「ああ、あのオカマか!何の用だ」
「オカマじゃありません」
「ああ、オカマじゃなくてゲイだったな。思い出した。で、何の用だ」
「用って、あんたがこのTELナンバーくれたんですよ?掛けろって意味じゃねえの?」
「……そうだっけか」
「そうですよ」
「わかった。じゃ、今から出て来い」
「え、どこに。って、俺、仕事中なんですけど」
「いいから、出て来い」

俺は給仕長に早退する旨を伝え、急いで指定された駅前の喫茶店に向かった。
出だしからこんなに振り回されてどうするんだと、心の声に突っ込まれたが、そこは無視する。
これを逃したら、ゾロは二度と会ってくれないだろうという気がしたのだ。

ゾロは先に来ていて、カウンター席に座って競馬新聞を読んでいた。
俺の姿を見るとニヤリと笑い、立ち上がる。
「マスター、移動するわ。コーヒー、こっち持って来て」
俺を手招きして奥のボックス席に誘い、「コーヒーでいいか?」と尋ねてくれた。
「うん。いい」
俺はポーっとしてしまって、それだけ言うのが精一杯だった。
すぐにわかってくれるとは思わなかったのだ。
ゾロは俺の女装姿しか見ていない。
今日の俺は、生成りのシンプルなニットにブルージーンズにブーツだ。
「こっちの方がずっといいな」
ゾロは俺の服装を見て、目を細めた。
「女の格好したおまえを抱くのは想像がつかなかったが、今のおまえとならヤレそうだ」
「てめえ、真昼間から何を……」
カッと血が上り、耳まで赤くなったのが自分でもわかる。

結局、俺とゾロはその日、暗くなる前にベッドインしてしまった。
場所は俺の部屋。
会ってまだ二度目の、どんな奴だかろくに知りもしない人間を部屋に入れるなんて初めてだ。
だが俺は後悔しなかった。
ゾロのセックスは最高だったからだ。

ゾロはその晩、当然のように俺のアパートに泊まった。
そして、朝になっても出て行こうとしなかった。
出勤しようとする俺に、ゾロは「鍵、よこせ。俺も出掛けるかもしれねえから」と言って、手を差し出した。
俺は一瞬ためらったが、言われるままに鍵を渡してしまった。
思えばその時に、俺は引き返すチャンスを失ってしまったのかもしれない。
ゾロは勝手に合鍵を作って来て、マスターキーは返してくれた。

一ヶ月が過ぎた頃、俺はゾロに「そろそろ家に帰らなくていいのか」と聞いた。
ゾロはバンドの練習と、ハコバンの仕事に行く以外は、俺のベッドでゴロゴロしながらビールを飲んで過ごしていた。
「なんで?」
ゾロは無邪気な顔で聞き返した。
「なんでって、おまえ、いろいろあるだろ……」
「別に、何も困ってねえよ?」
ゾロは俺を引き寄せ、キスをした。
そりゃ、困ってはいないかもしれない。
飯だって、風呂だって俺が支度して。
ゾロは酒飲んで、飯食って、ついでに俺も食って、風呂入って寝るだけだ。
 
「おまえ、どこに住んでんの?」
「ここ」
ゾロは俺を抱きしめ、満足げに答えた。
猫だったら、盛大に喉を鳴らしているだろう。
「そうじゃなくて、ほんとはどこに住んでんだよ」
「だから、ここだって」
「……ここの前は?」
「言わねえ」
「なんでだよ」
「おまえの機嫌が悪くなるから」
大体のことは察しがついた。
女のところにいたんだろう。
こいつが、T線の沿線全ての駅に女がいるという話はもしかしたら本当かもしれないと俺は思い始めた。
信じがたいが、ゾロは自分名義の部屋がないのかもしれない。
ホームレスと付き合ってるのかと思うと、俺はクラクラして来た。



ゾロのバンドは、はっきり言って売れる見込みはない。
才能云々の話ではなく、ジャンルがメジャーではないからだ。
今時流行らない、サザン・ソウルとブルース。
演奏自体は悪くない。
その証拠に、自主制作で出したCDはインディーズチャートではそこそこの順位を取ってるらしいし、クラブのハコバンとしてステージ契約もしている。
だが到底、音楽活動のギャラだけでは大人一人が食っていけるほどの収入にならないというのが現状だ。
バンドのメンバー達は、それぞれ音楽以外のバイトをしていて、なんとか食いつないでいるらしかった。

ゾロはバイトなどしない。
俺が食わせてやっているからだ。
その前は、女に食わせてもらっていたんだろう。
天性のヒモというのがいるとしたら、ゾロがまさにそだ。
俺はヒモに絡め取られた哀れな男か。
いや、違う。
俺がゾロを捕まえているのだ。
一度ゾロのセックスを知ってしまったら、そう簡単には手放せない。

ゾロはベッドで豹変するタイプだ。
普段はどちらかというと物静かで大人しいが、俺と寝る時は、激しくて情熱的な男になる。
そのギャップがまた、たまらない。
俺は、ことの最中にべらべら喋る男は本来好みではないのだけれど、ゾロの逞しい腕に抱きしめられて、あのセクシーな声で耳元でいやらしい言葉を囁かれると、それだけで射精しそうに感じてしまう。
長い指は俺の想像通り、器用で淫らだ。
性器がまた、素晴しい。
ずっしりと重たく、太くて長くて、男の持ち物としては理想的な大きさと力強さなのではないだろうか。
両手に包み込んで撫でさすって唇を寄せる度に、これを他の男や女に渡してなるものかと思う。

ようするに、俺はゾロにぞっこんなのだ。
今更、店の踊り子達に何と言われても引き返せない。
 
俺はゾロのことを何でも知りたくて躍起になっていたけれど、ゾロはあまり自分のことを話したがらなかった。
何とか聞き出したのは年齢(俺と同い年だった)と、誕生日と、親の実家は隣県で、ゾロの住民票はまだそこにあるということ。
ゾロは自分の話をしない代わりに、俺にも大して興味がなさそうだった。
そこは是非興味を持って欲しかったので、俺は一生懸命俺の話をした。

今は『バラティエ』でウエイターをしているが、本当はコックになりたいこと。
金が貯まったら、仕事のシフトを変えてもらって、調理師学校に行きたい。
そして、『バラティエ』の料理長のクソジジイに負けないくらい、金色に澄んだ美味いコンソメを作りたいのだと。
「そうか。おまえなら、出来るよ」
ゾロはぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でてくれた。
「おまえは夢はねえのか?バンドでブレイクするとか」
ゾロはおかしそうに笑った。
「ブレイクしたきゃ、ブルースじゃなくて違う音楽やってるよ」
「まあ、それはそうか」
「俺はこのままでいいんだ」
ゾロは俺を抱き寄せた。
俺達は服を着て普通に話をしていても、こうしていつの間にかセックスになだれ込んで行く。
だから、話はいつも結論が出ないままだ。

俺とゾロが付き合うようになって、初めての記念日がもうすぐ来る。
ゾロの誕生日だ。
俺は誰と付き合っても、いろいろな記念日を大事にする。
そういう節目節目を積み重ねて行くことが、二人の思い出になるのだから。
俺は、ゾロの誕生日を盛大に祝ってやることにした。

しっとり祝うのは二人きりになってからベッドでやればいい。
とりあえずは派手なサプライズパーティーだ。
『バラティエ』はちょっとゾロにはお上品すぎるので、会場は『カマバッカ』を使う。
招待客はバンドのメンバーのみ。
俺の知る限り、ゾロには他に友人と呼べる人間がいないのだった。
女性の知り合いなら沢山いるのだろうが、過去ゾロと寝たに違いない彼女らを呼ぶほど、俺は人間が出来ていない。

料理は『バラティエ』に仕出しを頼むことにした。
料理長のジジイには、友人の誕生日だと言ってある。
恋人だと言うと、きっと一騒ぎあるだろうからだ。
ジジイは頑固で偏屈だが、こんな俺に一応は目を掛けてくれている。
年寄りだから、俺の恋人が男だと知ったら心臓発作でも起こすかもしれない。

パーティーの段取りは、ウソップが相談に乗ってくれた。
ウソップは良い奴だ。
俺がバンドのライヴに顔を出し、打ち上げにも混ぜてもらっているうちに、自然に俺とウソップは親しくなった。
今では、ゾロを仲立ちにしなくても俺達は友人だ。
また、ウソップは数少ないゾロの理解者……というよりは尻拭い役でもあるらしい。

「この間もさあ」
ウソップはため息をついた。
「ゾロの奴、ベースを質入れしやがってよ。ライヴ直前にだぜ?タチわりぃよなあ。わかっててやってんだよ」
ゾロは左利きだ。
左利き用のジャズベースは、スタジオやライヴハウスはおろか、楽器店でも置いていないところが多いので、ゾロは自分の楽器がないと演奏はままならない。
わかっていて、ゾロは質に入れてしまうのだ。
ライヴ前なら、メンバーが文句を言いながらも受け出さざるをえないのを知っていて、わざとやる。
それも、飲み代やパチンコ代の小金欲しさにだ。
「また、迷惑かけたな。言ってくれれば、俺が受け出しに行ったのに」
「いいよ。損な役回りだけど、これも俺のつとめだ」
俺が謝ると、ウソップは諦め顔で笑った。
「本当に、あれで才能がなかったら、ただの社会不適応者だよな、ゾロ」
「あいつ、才能あんの?」
「あるよ。音楽のセンスはいい。アレンジも出来るし。もっと性格がどうにかなってたら、スタジオミュージシャンとかでもやって音楽だけで食っていけるんじゃねえかな、あいつは」
「へえ、そうなのか」
俺は自分が褒められたように嬉しくなった。
ゾロは才能がある。
そこらのヘタレなヒモとは違うのだ。
「ほんとに、酒は飲みすぎるし、時間は守らねえし、マイペースを通り越して身勝手そのものだし、女癖は悪いし……サンジ、よく付き合ってるよな。あ、女癖だけはおまえと付き合うようになってから収まってるな」
ひどい言いようだが、ウソップはゾロを嫌ってはいない。
俺よりよっぽど長く、バンドメンバーとして、また友人としてゾロと係わっているのだ。
「パーティーの中盤で、“イッツ・ノット・ザ・スポットライト”を演ろう」
ウソップが言った。
「ロッド・スチュワート?ブルースじゃねえじゃん」
「綺麗な曲だよ。ゾロがすげえ好きなんだ。時々、ライヴでも演ってるよ。この曲、フランキーじゃなくてゾロが歌うんだぜ。
まだ聴いたことなかったか」
「ねえよ!」
俺は興奮して身を乗り出した。
パーティーが一番盛り上がったところで、主賓が歌うのも新鮮でいいじゃないか。
何より、俺がゾロの歌を聴きたい。
歌うなんて、知らなかった。
俺はまだ、ゾロのことなんて何も知らないのかもしれない。



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